2015年6月の便りこのページを印刷する - 2015年6月の便り

前略 産科病棟より 若手産科医の喜怒哀楽

 『胎児治療が一般的な医療に近づくために我々ができること』

 
  注!)今回の内容はかなりマニアックなものになっております。が、理想の学習環境を構築するために試行錯誤する産科医師の喜怒哀楽を垣間見ていただければ幸いです。
 
  最近の僕の趣味 重要任務は理想のファントム作成です。ファントム・・、一般の方にはあまり耳慣れない言葉かもしれません。辞書で調べてみると、
『ファントム[phantom]:幽霊、幻影』
といっても理想の幽霊を作っているわけではありません。我々の分野で『ファントム』とは研究や医療実習で使われる、患者さんの代わりになる画像診断用のシミュレーターのことです。近年シミュレーション学習の重要性が認識されるようになり、いろいろなファントムが市販されております。子宮に入った胎児の超音波用ファントムや、CT撮影用腹部臓器ファントムなどなど・・。しかし今のところ胎児治療用のファントムは販売されていません。胎児治療を行なう施設はかなり限られているので企業的には採算が取れないのだと思いますが、やはり今後胎児治療が多くの医療者に認識され、広く行われるようになるためには、胎児治療用のファントムが不可欠だと思うのです! という理念のもと、少数精鋭(?)のチームを編成しファントム作成に取り組んでおります。
  通常の超音波検査用のファントムは水風船の中に胎児の人形が入っているようなイメージです。しかし、胎児治療用のファントムは穿刺手技(針を刺すこと)が前提となるため、通常の構造では一回の穿刺で空気が入ってしまい、何十万円もするファントムがダメになってしまいます。『一発必中』という緊張感はリアルかもしれませんが、我々はそんなにお金持ちではありません。なので、安価な使い捨てファントムの開発が必要です。ということで、まず素材探しから。ホームセンター、スーパーマーケット、はたまたトイ○らスまで徘徊して使えそうな素材を探して来ました。今のところたどり着いたベースの素材はゼラチンです。ゼリーなら多少刺しても空気が入ることはなく、数回の穿刺には耐えられます。ゼラチン濃度を何種類か変え、超音波プローブを当てた時の感触、超音波の透過性、針を刺したときの先端の見え方などを検討しました。中に空気が入ってしまうと超音波が減衰して見えなくなってしまうため溶存ガス減らす必要があります。インターネットで溶存ガスをなくす方法を調べたところ、陰圧をかけると溶存ガスが気泡となって液体から抜けるというテクニックを見付けました。そこで溶かしたゼラチンを吸引器の中に入れ真空脱気をかけたところ、あっという間に沸騰してせっかく作ったゼリーが半分ぐらい無くなってしまいました。気圧が下がると沸点が下がるという理科の実験を思い出し、その次からは沸騰する直前の吸引圧をかけるように改善しました。そんなこんなでベースを作って、今度は穿刺のターゲット作成です。超音波ガイド下に針を刺して、中から液体が吸引できる、という物体が理想です。当初はスーパーで見付けた「いくらの醤油漬け」がよいかな?とも思いましたが食品は腐る可能性があるので却下。そこで人工いくらを合成する方針となりました。これがまた難しくて、作ってみたものの超音波でなかなか見えない・・。我々胎児治療を行っている人間が穿刺しようとしてもなかなか見えないし、刺さらない。どんなエキスパートを養成しようとしているのだ!?、というぐらい難しく、とても実習用ファントムには使えない・・。という所で本日の実験は終了しました。
  まだ先の見えないファントム作成ですが、いつかきっと理想のファントムができることを目指して日々の努力を積み重ねていきます。うまくできたら秘伝のレシピを学会発表しようと思っています!
                                                                                                   (S.I)
 




長良医療センター産科チームからの生のメッセージです。